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忍び寄る殺意
「良かった間に合って」
「俺の楽しみを奪う気か?」
「別に奪う気はないわよ。だから怒らないでよ」
午前中のうちに退院することになり、借りていた車椅子を返し、彼に横に抱っこされ車に乗り込もうとしていたら結お姉さんと櫂さんに呼び止められた。声のした方を見ると笑顔で手を振る結お姉さんと、折り畳まれた車椅子を抱えた櫂さんがいた。
「これはお爺ちゃんとお婆ちゃんから四季くんへのプレゼントだよ。車椅子は四季くんの体の一部だからね。電動にしたら逆に気を遣わせてしまうから、今まで使っていた車椅子とは少し違うかも知れないけど是非使ってほしいって」
(そんな……)
思いもしないことに驚き息が止まりそうになった。
(なんでそこまで……)
彼や結お姉さんを見上げ首を横に振った。
「だって四季くんは和真のお嫁さんだもの。ふたりにとって孫も当然。そうでしょう?車椅子、どこに乗せればいい?」
「姉さん、櫂さんありがとう」
彼と一緒に頭を下げた。
「四季を乗せてからトランクを開けるから少し待ってて」
助手席に下ろしてもらったすぐ直後。
何か、黒いものが上から降ってきた。
「四季見ちゃダメだ」
彼の表情がみるみるうちに青ざめていった。
「結、きみもだ」
櫂さんも慌てていた。
女性の悲鳴と、誰か医者を呼んでこい!男性の怒号が飛び交い、辺りは騒然とした。
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