｢なにも長澤が辞める必要はないのにな｣ 武田課長が野次馬で溢れかえる駐車場を鋭い目付きで睨み付けた。 ｢そういえばまだ聞いていなかったな。結婚式はいつなんだ？｣ ｢１０月１０日です｣ ｢１０月１０日？半年後か。まさに電撃結婚だな｣ ｢場所は市民庭園だったな。今流行りのガーデンウェディングか。いいな若いって｣ ｢寿退社するにはちと早過ぎるだろう｣ お世話になった武田課長と上石課長に挨拶して少しだけ話しをして帰ろうとしたときだった。 吉村さんの足が急に止まった。 ｢どうした？｣ ｢誰かに見られているような気がしてならないんだ｣ 斎藤さんが辺りをキョロキョロと見回した。 ｢誰もいないぞ｣ ｢やっぱり気のせいか｣ 吉村さんが歩き出そうとしたそのとき。 冷水を掛けられたように背中にぞくりと寒気が走った。 寒くもないのにぶるぶると身体が震える。 ｢僕があなたに一体何をしたっていうの？なんでそんなに僕を恨むの？｣ 勇気をふりしぼり誰もいないはずの薄暗い通路に向かって叫んだ。