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暗黒沈黙
まここころの会に寄せられた善意で事故から10年後にお墓が建立された。それまでお寺で預かってもらっていた両親の遺骨をようやく納骨することが出来た。
墓石の前に立っていたのは副島さんだった。
「遅かったな……おぃ、和真!」
副島さんが目の色を変えて飛んで来た。
「落としたらどうするんだ?車椅子は?」
「俺が四季を落とす訳ないだろう。車椅子でここに来るのは無理だ。だから、諦めて桜の木の側に置いてきたんだろうが」
またふたりの口喧嘩がはじまった。
「あらあら」
お婆ちゃんがおほほと微笑みながら、
「仲がいいのね」
と言うと、
「冗談だろう。誰がこんなヤツと」
ふたりの声が見事にハモった。
「ほら、やっぱり仲がいいじゃないの」
お婆ちゃんがクスクスと笑った。
お墓の前に真っ白なカモミールの花が供えられていた。まだ萎れていない綺麗なものだ。
「カモミールは仲直りやごめんなさいのときに相手に贈る花みたいだ」
「詳しいな」
「何の花か分からないからスマホで調べた」
やはり長谷川さんはここに来たんだ。
お婆ちゃんが花を供えていると何かに気が付いた。
「お爺ちゃん、これってもしかして……」
真っ白な花に赤黒い点々がところとごろに付いていた。
「詳しくは調べてみないと分からないが、血痕かも知れない。和真、警察を呼んだ方がいい」
お爺ちゃんの表情が強張った。
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