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暗黒沈黙
ここ四半期交通事故以外の事件が起こったことがないという、のどかで静かな山あいの町にサイレンの音が鳴り響いていた。
地元の消防団も警察に協力して夜を徹して捜索にあたってくれたけど長谷川さん……じゃない初瀬川さんは見付からなかった。
町内にある民宿にそのまま一泊することになった。
何がなんでも初瀬川さんを見付け出す。絶対に死なせない。その思いはみんな同じ。副島さんも斎藤さんも吉村さんもほとんど一睡もせず初瀬川さんを懸命に探してくれている。
彼も知り合いのつてを頼り紹介してもらった初瀬川さんの同級生だという男性から電話で夜遅くまで話しを聞いていた。
こたつに突っ伏してそのまま眠ってしまった彼を起こさないように、横にお尻をずらしながらゆっくりと近付くと、背中にそっと袢纏を掛けてあげた。
疲れがはっきりと窺える横顔にズキリと胸が痛む。
ごめんなさい和真さん。迷惑ばかり掛けて。心の中で何度も謝った。
「う……ん……」
微かに瞼が動いたような気がして。
慌てて離れようとしたら、
「ーーあ」
ぎくんっと一瞬にして心臓が縮み上がった。
瞼を開いた視線に、あるはずのないものがあった。
それは彼の瞳。濡れたように黒いそれが僕をじっと見つめていた。
「起こしちゃってごめんなさい」
「ずっと起きてたよ。四季のかわいい寝顔を堪能出来るのも夫としての特権だろ?だから嬉しくてさ、結局一睡も出来なかったんだ。5時から……ってあと20分で5時だけど、町内を流れる大川の捜索を陸と空から同時に行うらしい。どうした四季?顔色が悪いぞ」
心配そうに顔を覗き込まれた。
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