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暗黒沈黙
僕たちが宿泊した民宿は平屋作りで、廊下の右手に大広間があり、左側に客室が5部屋。お風呂は別にある。
家族経営のこじんまりとした宿だ。
彼に車椅子を押してもらい帳場の前にある休憩スペースに向かうと、お爺ちゃんが駐在所のお巡りさんと消防団の団長さんらと打合せの真っ最中だった。
お婆ちゃんはというと、厨房で民宿の女将さんと一緒に捜索隊に差入れするおにぎりを握っていた。
人見知りな僕とは違い、ふたりとも社交的で積極的に自分から町のひとに話し掛け、あっという間に溶け込んだ。さすがだ。
「僕も手伝いたいな……だめ……かな?」
手をモジモジさせながら言葉を紡いだ。
「いいと思うよ」
「少しまだ怖いけど、お婆ちゃんがいるから頑張って声を掛けてくる」
「うん。頑張って」
笑顔の彼に見送られ、ハンドリムを手で漕ぎながら恐る恐る厨房に近付いた。
「あら随分と早起きね。もう少し寝てても良かったのに。どうしたの?」
「えっと、その……お婆ちゃんと女将さんに手伝いたくて」
スボンの生地をぎゅっと手で掴み、ふたりの顔をちらちらと見ながら言葉を継いだ。
「あら、そうなのね、ありがとう四季くん」
「助かるわ。ちょっと狭いけどどうぞ」
「はい。宜しくお願いします」
ペコリと頭を下げたら、なぜかクスクスと笑われてしまった。
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