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焼きもちを妬いてばかりの彼
「ん……」
なんとなく寝苦しくて目を覚ますと、身体の、ちょうど胸の上辺りに腕が乗っていた。
逞しいそれは、細くて小柄な僕のものとはまったく違う、大人の男のものだ。
眠っていても、お互い一歩も譲らず僕の所有権を主張しているかのようなふたつの腕に苦笑いしながら、よいしょ、よいしょ、と胸の中で呟き、やっとの思いでその腕を身体の上から退けた。
そしてそろそろと上体を起こすと、傍らで心地良さそうに寝息を立てている彼と副島さんの横顔を交互に見つめた。
正体を明かしてもいいんじゃないか?その方が兄として妹の側に堂々といれるんだぞ。
彼にそう言われた副島さん。
『黒幕を見つけるまでは敵役に徹する。笑わないって四季と男の約束したんだ』
そうはっきりと断言した。
『お前がそこまで言うなら……』
副島さんの並々ならぬ決意を前に、彼もそれ以上は何も言えなかったみたいだった。
ふたりとも普段はとても忙しいのに、僕のために時間を作ってくれたのかと思うと「ありがとう」と伝えずにはいられなくなる。
ふたりが起きたら、また他愛もないことで口喧嘩する前に感謝の思いを伝えよう。
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