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暗澹
彼に車椅子を押してもらいリビングに向かうと、斎藤さんと吉村さんが座っているソファの傍らに背の高い男性が佇んでいた。
190センチはあるだろうか。頭が小さく手足の長い抜群のスタイルだ。
いかにも闊達(かったつ)そうな、スポーツが得意そうな外見だ。
「どうした?」
「どこかで見たことがあるんだ」
「へぇ~、そうなんだ」
彼が怪訝そうに眉をひそめた。
「和真、すぐそうやって焼きもちを妬かないの」
コーヒーを持ってきてくれた結お姉さんが苦笑いを浮かべていた。
「プロバスケットボールチーム、通称BリーグのFボンズに所属している。選手名はTAKA。2年前、チームに迷惑を掛けたくなくて引退しようと思ったんだ。でも姉さんに励まされてバスケを続けることを決意した。姉さんが、真面目で頑張りやさんで素直でいい子なんだっていつもきみの自慢話ばかりしていたから、一度でいいからきみに会いたかったんだ」
男性が穏やかな笑みを湛えながらゆっくりと近付いてきた。
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