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暗澹
「それ以上は近付かないでくれるかな」
彼が車椅子をバックさせた。それを見た男性が声を出して笑いだした。
「姉さんの言う通りだ。いや、何でもない」
男性の表情が引き締まった。
「声だけじゃなく、ちゃんと顔を見て謝りたかったから、無理を承知で朝宮さんに頼んだんだ。この2年、国内を遠征で回りながら、兄を探し回ったけど手がかりすら見付からなかった。いつか必ず長澤さんの前に兄を連れてきて謝罪させるから待っていて欲しい」
「初瀬川さん、今はお姉さんを助けるのが先です。僕に関わったばかりに事件に巻き込まれてしまったんです。謝らないといけないのは僕の方です。ごめんなさい」
頭を下げた。
「長澤さん、頭を上げて。きみは何も悪くない。悪くないんだから」
「でも……」
言葉を濁すと、
「きみは優しい人だ。それに俺も姉さんももっと早く気付くべきだった。兄がきみにしたことは決して許されるべきことじゃない。非難されて当然だ。それなのに逆恨みし、きみを憎んだ。ごめん、悪かった」
隆之さんが腰を九の字に曲げ頭を下げた。
「え、なんで」
どうしていいか分からなくて。
彼に助けを求めた。
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