198 / 588

暗澹

「良かったわね、いい人に巡り会えて」 「はい」 両手に黒田さんの手が重ねられ、ぶんぶんと振られた。 「見ているこっちが恥ずかしくなるくらいラブラブで、羨ましいわ。ね、初瀬川(はつせがわ)さん」 「はい」 あれ、今、長谷川じゃなくて初瀬川(はつせがわ)って呼んだよね? 「あの、黒田さん……」 恐る恐る聞いてみた。 「2年前の事件を覚えている人もいるでしょう。初瀬川も珍しい名字だし。それに、噂話が大好きな人たちが丸和電機にはたくさんいるし。彼女を守るため、湯沢常務と武田課長と上石課長にお願いしたの。会社では初瀬川ではなく、長谷川さんって呼んで欲しいって。でも、まさか、被害者と加害者の家族が同じ職場で出会うなんてね。驚いたわ」 「神様が引き会わせてくれた。私はそう思う」 初瀬川さんがテーブルの引き出しを開け、茶封筒を手に握ると、それを彼の前にすっと差し出した。 「隆之さんにも言ったが」 「安心して。お金じゃないわ。黒田さんといろいろ話しをして、おかしいと思ったことを書き出しただけ。誰が聞き耳を立てている分からないから」 「初瀬川さんもおかしいって思いましたか」 彼が茶封筒を静かに受け取った。

ともだちにシェアしよう!