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暗澹
「良かったわね、いい人に巡り会えて」
「はい」
両手に黒田さんの手が重ねられ、ぶんぶんと振られた。
「見ているこっちが恥ずかしくなるくらいラブラブで、羨ましいわ。ね、初瀬川 さん」
「はい」
あれ、今、長谷川じゃなくて初瀬川 って呼んだよね?
「あの、黒田さん……」
恐る恐る聞いてみた。
「2年前の事件を覚えている人もいるでしょう。初瀬川も珍しい名字だし。それに、噂話が大好きな人たちが丸和電機にはたくさんいるし。彼女を守るため、湯沢常務と武田課長と上石課長にお願いしたの。会社では初瀬川ではなく、長谷川さんって呼んで欲しいって。でも、まさか、被害者と加害者の家族が同じ職場で出会うなんてね。驚いたわ」
「神様が引き会わせてくれた。私はそう思う」
初瀬川さんがテーブルの引き出しを開け、茶封筒を手に握ると、それを彼の前にすっと差し出した。
「隆之さんにも言ったが」
「安心して。お金じゃないわ。黒田さんといろいろ話しをして、おかしいと思ったことを書き出しただけ。誰が聞き耳を立てている分からないから」
「初瀬川さんもおかしいって思いましたか」
彼が茶封筒を静かに受け取った。
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