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暗澹
「ほら、カフェオレとお釣り」
「ありがとう」
両手で受け取るとたもくんに手元をじぃーと見つめられた。
「それ婚約指輪だろ?」
「和真さんは結婚指輪だって」
「要は害虫避けか」
「害虫…?ごめん、よく聞き取れなかった。もう一回言って」
カフェオレのペットボトルを膝の上に置いた。
「何でもない。独り言だから気にするな。男から結婚しようってプロポーズされて、指輪をプレゼントされると普通は嬉しいよな」
「うん。きよちゃんと何かあったの?喧嘩でもしたの?」
「きよだけ真っ暗な部屋でたった一人で監禁されていたらしい。だから、人が怖くて誰にも会いたくないそうだ。精神的にも不安定でまだ混乱している。長谷川さんと黒田さんは一緒だったから、黒田さんが持ち前の明るさで長谷川さんをずっと励ましていたから良かったけど……」
そこで言葉を止めると悔しそうに唇を噛み締めた。
「夫である君が支えるしかないんだ。そうだろう?」
彼が戻ってきた。
「まだ夫じゃない」
「いずれは彼女と結婚するんだろう」
彼の問いにたもくんは答えなかった。
「岩水さん、すみません」
ちょうどその時、看護師さんがたもくんを呼びに来た。
「今行きます」
自販機でペットボトルのお茶を2本購入すると、足早にきよちゃんが入院している病室へと向かった。
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