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報われない想い
「バスの運転手さんの奥さんが代表だとは聞いてます。僕それしか知らないんです。名前とかどこに住んでいるのかとか、全然知らなくて」
「かくらいさんよ。K市に住んでるわ」
女性がハンカチで涙を拭いながら教えてくれた。
K市は先月まで僕が住んでいた町だ。
「かくらいさん?」
聞き慣れない名字に首を傾げていると、家に久し振りの"久"に来るの"来"で、家久来(かくらい)だと教えてくれた。
「どんな女性なんですか?」
「う~~ん、そうだね」
一瞬だけ困ったような表情をされた。聞いてはまずいことを聞いてしまったのかも知れない。
「やっぱりいいです」
慌てて顔を振った。
「もう彼女に会ってるよ」
「え?」
はじめ聞き間違いかと思った。
「あのすみません、もう一回言ってもらってもいいですか?」
副島さんのお父さんがニッコリと微笑んだ。
「別になにも言ってないよ。四季くん、呼ばれてるよ」
聞き返そうとしたら、矢野倉さんの声が耳に入ってきた。
後ろ髪を引かれる思いでその場を立ち去るしかなかった。
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