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狂気
それから結婚式の準備がゆっくりはじまった。初瀬川さんと黒田さん、それに湯沢常務と武田課長と上石課長。丸和電機でお世話になった人たちは勿論、たもくんときよちゃんにも参列して欲しくて招待状にふたりの名前を書いた。
「今日、ちょうど試作品の打合せで、須釜製作所に行く用事があるから、岩水に会ってくるよ」
「はい、お願いします」
たもくんの名前を出したら、彼の機嫌が悪くなるかなってヒヤヒヤしたけど、いつも通りで、焼きもちも妬かれなかった。
良かった……ほっとして胸を撫で下ろした。
「あ、そうだ。副島親子と会ってくるから、帰りが遅くなるかも知れない」
「まだ決まってないんだ」
「たく、困ったもんだ。どっちが四季と一緒にバージンロードを歩くかで、あんなに揉めるとは思わなかった」
ネクタイを直しながらやれやれとため息をついた。
「ま、ふたりとも四季が可愛くて仕方がないだ。しょうがない。上手く折り合いを付けてくるよ。じゃあ行ってくる」
いつものように前屈みになり、おでこと頬っぺと、最後に唇に軽く口付けをしてくれた。
毎日の日課なんだけど、いまだに慣れなくて、めちゃくちゃ恥ずかしい。
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