その直後、一台のタクシーが目の前で静かに停車した。車体にはツバメ福祉タクシーの文字が入っていた。 ｢ツバメ福祉タクシーの西本と申します。一宮さんに頼まれまして、朝宮さんをお迎えに上がりました。何かあったんですか？｣ 助手席の窓が自動で開いて、人の良さそうな中年の男性が運転手席から身を乗り出した。 ｢今すぐ病院に行かないと｣ ｢疑って申し訳ないんですが、本当に一宮さんに頼まれたんですか？｣ 矢野倉さんが聞き返した。 ｢はい。車が渋滞して先に進まないので代わりに迎えに行って欲しいと｣ ｢そうですか。すみませんが、警察が来るまでそのまま車の中でお待ち頂けませんか？ここは邪魔になるので駐車場に移動してください｣ 矢野倉さんはとても落ち着いていた。 ｢四季くんを中に運んで。ガラスが入っているかも知れないから車椅子には絶対座らせちゃ駄目よ｣ 矢野倉さんが着ていたジャンパーを脱いで肩に羽織らせてくれた。 ｢服濡れてしまう｣ ｢いいのよ。気にしないで。一宮さんに電話をするから待ってて｣ スマホを耳にあてた。