253 / 588

狂気

「なんで?」 「お兄ちゃんが悪者から四季を守る。だから、四季はお兄ちゃんのお嫁さんになる。約束したはずだ。それなのになんで他の男と」 底知れない哀しみと怒り。それを剥き出しながら、僕を抱き上げると、椅子を蹴飛ばした。 ガタン、店内に響く大きな音に、ようやく回りにいた人達が異変に気付いてくれた。 「動くんじゃねぇ。コイツがどうなってもいいのか!」 もう一人の男が大声を張り上げ、僕の背中にナイフを突き付けた。 「どけ!」 じろりと鋭い眼光で睨みをきかせ、回りを威嚇しながら、ドアに向かってゆっくりと歩き出した。 「暴れるなよ。大人しくしていれば危害は加えない」 「 ーーたもくん、お願いだから、きよちゃんを泣かせないで」 「俺の前で二度ときよの話しはするな。誰とでも寝るふしだらな女。もう懲り懲りだ」 マスクで顔の表情はよく分からなかったけど、目の下が黒く変色し腫れているような、そんな感じがした。 「目の下、きよちゃんに殴られたの?」 たもくんは何も答えてはくれなかった。 「止まりなさい」 ちょうどそこに駐在所のお巡りさんが駆け付けてくれた。

ともだちにシェアしよう!