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狂気
「なんで?」
「お兄ちゃんが悪者から四季を守る。だから、四季はお兄ちゃんのお嫁さんになる。約束したはずだ。それなのになんで他の男と」
底知れない哀しみと怒り。それを剥き出しながら、僕を抱き上げると、椅子を蹴飛ばした。
ガタン、店内に響く大きな音に、ようやく回りにいた人達が異変に気付いてくれた。
「動くんじゃねぇ。コイツがどうなってもいいのか!」
もう一人の男が大声を張り上げ、僕の背中にナイフを突き付けた。
「どけ!」
じろりと鋭い眼光で睨みをきかせ、回りを威嚇しながら、ドアに向かってゆっくりと歩き出した。
「暴れるなよ。大人しくしていれば危害は加えない」
「 ーーたもくん、お願いだから、きよちゃんを泣かせないで」
「俺の前で二度ときよの話しはするな。誰とでも寝るふしだらな女。もう懲り懲りだ」
マスクで顔の表情はよく分からなかったけど、目の下が黒く変色し腫れているような、そんな感じがした。
「目の下、きよちゃんに殴られたの?」
たもくんは何も答えてはくれなかった。
「止まりなさい」
ちょうどそこに駐在所のお巡りさんが駆け付けてくれた。
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