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狂気
「風邪ひくから、急いでこれに着替えろ」
たもくんから服を渡された。
「お互い裸は見慣れているだろ?今さら恥ずかしがってどうする」
「だって……」
服を抱き締めたままもじもじしていると、
「ほら、バンザイ」
痺れを切らしたたもくんが僕の服を脱がし始めた。
力の差は歴然としている。体格差もある。何もしないよりはマシだもの。
手を必死にバタつかせて抵抗を試みた。
「下着は脱がせない。暴れるな」
頭からすとんと服を着せられた。見ると小花柄のワンピースだった。
「やっぱ可愛い。これを選んで正解だった」
にこっと微笑むと、手首を強く掴まれ、胸元に抱き寄せられた。
「たもくん、嫌だ」
彼以外の人に触れられるのが嫌で嫌でならなかった。嫌悪感しかなかった。
「四季」
そんな哀しげな目で僕を見ないで。
「ごめんな、巻き込んだりして」
なんでたもくんが謝るの?
タクシーは幹線道路沿いに建つホームセンターに入ると、店舗から離れた場所で停車した。
「着いたぞ」
「先輩方を巻き込んでしまい、すみません」
「巻き込まれたとは思ってない。早く行け」
「はい。西本さんもありがとうございます」
たもくんが深々と頭を下げた。
「甥の弔い合戦だ。気にすんな」
運転手席から声が返ってきた。
「甥の弔い合戦って?」
たもくんに聞いたけど何も答えてくれなかった。
「行くぞ」
ふわっと体が宙に浮いて、タクシーから下ろされると、隣に駐車していた白い軽自動車の助手席に乗せられた。
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