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一生消えない心の傷
歩けるならここから逃げ出すことも、回りに助けを呼ぶことも出来るのに。
平日の午後。雨が降っているせいか、車も人もまばらだった。
たもくんの帰りを待ちながら、ボイスレコーダーをあちこち見ていたら、間違って再生ボタンを押したみたいで、急いで停止のボタンを押そうとしたら、園長先生の声が聞こえてきた。
「世間は五体満足の人間だけを優遇する。四季みたいな欠陥品は、誰からも愛される資格などない。生きている価値もない。どうせすぐに金も底をついて路頭に迷うようになるさ」
あ、これってまさか……。
「ねぇ先生、誰かに見られたらどうするの?」
「誰も来ないさ。それに鍵は閉まっているんだ」
「やだぁ、先生。見ちゃだめ」
「くりちゃんがほら膨らんできた。甘い汁も……なんだ、もうぐじょぐじょじゃないか」
「だめ、ちゃんとゴム付けて。じゃないと……あんたみたいな、ろくでもない男の子ども生むはめになるでしょう?実の娘の私だけじゃあ飽き足りなくて、他の女も妊娠させたんだろう?黙ってないで何か言ったら?」
そうだ、この声は間違いなくきよちゃんの声だ。普段とは全然違う声。だから、すぐに思い出すことが出来なかったんだ。
雑音が入ったのち呻き声が聞こえてきた。
「かわいそうだってみんなに優しくされて、ちらほらされて、あぁいう人間、あたしだっ嫌い。虫酸が走る。あんたが、安藤ならアイツをめちゃめちゃに出来るって言うから、結果はどう?悪どい金儲けと援交しか頭にないクソ親父。この役立たず!」
何かがぶつかる鈍い音と、園長先生が苦しむ声がボイスレコーダーから聞こえてきて、いたたまれず停止のボタンを押した。
嘘……だよね?きよちゃんなんで?
信じていたきよちゃんの本当の姿に愕然となり、放心状態になった。
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