『四季くん、スピーカーにしてくれ。岩水と話しがしたい』 たもくんに怒られるのを覚悟で通話中のままにしておいたスマホから斎藤さんの声が聞こえてきた。 ｢たもくん、ごめんなさい｣ ｢何年一緒にいたと思うんだ？四季が何を考えているかだいたい分かるよ。スピーカーにして」 ｢うん｣ スピーカーのボタンをゆっくり押した。 『弁護士の斎藤だ。闇夜に目ありという言葉があるように、どんな完全犯罪でも罪から逃げれる方法はない。岩水、きみを絶対守る。だから私たちを信じてほしい』 ｢斎藤さん、気持ちには感謝します。でも、四季を巻き込んでしまった以上、あとには引けません｣ 『岩水、四季は巻き込まれたとは思っていない。君を助けたい一心でそこにいるんだ。私も副島も斎藤も吉村も四季と同じ思いだ。君を助けたい。だから、頼む。四季を……私の妻を返してくれ』 彼の悲痛な声がスマホから聞こえてきた。 ｢あなたみたいな人が四季の夫で本当に良かった｣ 『岩水!』 すっと手が伸びてきてスマホを持ち上げると、片手で電源を切り後ろへ投げた。 ｢やっぱり海に行こう｣ 運転するだけでも辛そうなのに、たもくんはハンドルをしっかりと握り絞め、スマートインターの出口の脇をスピードを上げ一気に通過した。