266 / 588

一生消えない心の傷

浜辺を一掃して砂に広がる波の音、その泡が立てるシューッという音が心地よく耳を撫でる。 たもくんは地平線に沈む太陽を一言も発せず黙って見つめていた。 「メモリーカード復活!俺やっぱり天才かも!」 車の中でパソコンを操作していた吉村さんが声を上げた。 「岩水、市内にあるいずみ厚生病院の外科医の佐瀬医師と話しがついた。しばらくそこで匿ってもらえる」 斎藤さんがスマホを耳にあてながら戻ってきた。 「和真、マスコミにこの情報を流すぞ」 「あぁ、頼む」 トイレ休憩で立ち寄ったサービスエリアで動けなくなったたもくん。あの不審な白いワンボックスカーが広い駐車場の中をうろつく中、お爺ちゃんと副島さんのお父さん、そして彼と斎藤さんが追い付いた。 彼の姿を見るなり無理してまで車を走らせようとしたたもくん。 「高速道路での事故で両親を失った四季に、二度も哀しい想いをさせないでくれ。岩水、頼む」 彼が危険を省みず車の前に立ち塞がり体を張って車を止めた。 どうしても海に行きたいと言い出して聞かないたもくんに、彼が提案したのはこのまま海に向かい、斎藤さんの又従兄弟が勤務する病院に身を隠すということだった。 サービスエリアを出発する頃には雨もすっかり上がり、青空が見えてきた。

ともだちにシェアしよう!