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複雑に絡み合う想い
「仕事に行ってくる。四季、4つの約束忘れてないよね?」
「うん。戸締まりガスの元栓は二回確認する、何かあったら和真さんや副島さんに連絡する。防犯ブザーを鳴らす、通行人や近くにある会社やお店の人に助けを求める、でしょう」
「忘れていないならそれでいい」
前屈みになると頬っぺに軽くキスをされた。
「か、和真さん」
結お姉さんがいるのに……耳まで真っ赤にして睨むと、僕の反応がよほど楽しいみたいでにこやかに微笑んでいた。
「これ見よがしに見せつけないで欲しいんだけどな」
「新婚なんだ、しょうがないだろう」
スイと頤を掬い上げると今度は唇に口付けをされた。
「愛してるよ四季。留守番頼むね」
結お姉さんに冷やかされながらも、機嫌よく仕事へ向かった。僕も火照る頬に手をあてながら彼を笑顔で見送った。
築40年のアパートを改装してシェアハウスにしたけれど、雨漏りが酷くて来月いっぱいでたて壊すことになり、オーナーさんのご好意でそれまでいていいことになった。僕たち以外に住人はいない。
「また通り魔だって。気を付けないとね」
「うん」
3日続けて通行人が見ず知らずの人から塩酸を掛けられ大やけどを負う通り魔事件が世間を賑わせていた。
犯人がどうかきよちゃんじゃありませんように。僕にはそう願うことしか出来なかった。
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