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複雑に絡み合う想い
「お姫様抱っこっていうんだろう?これを一度でいいからしたかった」
そのままくるっと一回転した。
「副島さん‼」
怖くて思わず首にしがみつくと、
「落とす訳ないだろう」
クスリと苦笑いし、静かにシートの上に下ろしてくれた。
「一宮さん遅いな」
「レジが混んでいるのかも」
「そうかもな。暑くないか?」
「うん、大丈夫」
心配でそわそわしながら待っていると、かっこうと鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「こんな街中で珍しいな」
建物を見上げると鳥の巣を見付けた。
「あれはツバメの巣だ。かっこうは他の巣に卵を産み込む托卵という習慣がある。托卵相手に子育てまでしてもらう。あれ?他人の空似かな。あの女性、円谷園長の妻によく似てるような気がするんだが」
副島さんに言われ目を皿のようにして見ると、見覚えのある青い車が目に入った。ナンバーを見て間違いないと確信した。助手席にいるのは間違いなく園長先生の奥さん、まなみ先生だ。運転手席にいたのは男性だった。なにやら楽しげに談笑していた。
「知り合いにばったり会って立ち話をしてて遅くなった」
お爺ちゃんが運転手席に乗り込んできた。
「覆面パトカーが張り込んでいる」
「円谷園長の妻も事件に関与しているんですか?」
「詳しいことまでは教えてもらえなかったが、多分間違いない」
お爺ちゃんがエンジンをかけると、くれぐれも気をつけて、副島さんが静かにドアを閉めてくれた。
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