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信じていたひとの裏側に隠されていた、もうひとつの顔

「四季逃げるぞ。姉さんたちもだ」 彼が壁を強く一回だけ叩いた。 緊急事態が起きたときの合図を結お姉さんとあらかじめ決めておいた。 建物が古いから火を付けられたら一貫の終わりだもの。 庭へ下りる為にスロープを彼がさっき設置してくれた。リュックサックを前で抱っこし後ろ向きでスロープをゆっくりと下ろしてもらった。 結お姉さんか櫂さんが通報してくれたのかな。敷地の外に出るとすぐに消防車とパトカーが駆け付けてくれた。 「私たちは何も。ねぇ、櫂くん」 「あぁ」 この地区で不審火が立て続けに三件起きたため警察が警戒を強め、パトロールをしていたとき灯油缶を持った不審な人物が歩いているのを発見。後を追ったらシェアハウス周辺で見失ったみたいだった。 警察と消防が建物内を確認し終わるのを固唾をのみながら見守った。 「もしかしたら片山さんところのお祖母ちゃんかも。認知症で徘徊することがあるみたいよ」 ご近所さんが警察にそんなことを話す声が聞こえてきた。 認知症? 認知……。 そうだ、思い出した。 「和真さんこんな時にごめんなさい。思い出したの」 「何をだ?」 「まなみ先生が持っていたのは認知届だった。認知される子の欄にたもくんの名前が書いてあって、認知する父の欄には園長先生の名前が書いてあった」

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