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信じていたひとの裏側に隠されていた、もうひとつの顔
チクチクと刺すような視線を感じ、息をつめ、そーっと辺りを窺った。
野次馬が少しずつ集まりはじめていた。
気のせいかな?
再びチラッと周囲に視線を流すと、今度は見られている気配はしなかった。
やっぱり気のせいなのかな。
それでも緊張は解けず、膝の上に乗せているリュックサックを抱え直した。
「どうした?」
彼が怪訝そうに眉を寄せた。
「誰かに見られているような気がしたんだ。でも気のせいだったみたい」
「そうか」
彼がすっと立ち上がると、スマホで野次馬を撮影しはじめた。
それを見た櫂さんもスマホで写真を撮りはじめた。
「暗くて顔までは分からないが、犯人が紛れ込んでいる可能性がある」
その直後。
背筋が寒くなるような不快感に襲われた。やはり誰かに見られている。
「和真さん」
助けを求めるかのように彼の袖にすがりついた。
野次馬とは少し離れた、街灯の下に誰かいた。暗くて顔までは分からなかったけど、
「……まなみ先生かも……知れない」
13年間ずっとお母さん代わりだった大切なひとだ。確信はなかったけど見間違える訳ない。
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