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コオお兄ちゃん
明らかに挙動不審なその人物は、軽々とフェンスを乗り越えて庭に侵入した。防犯カメラの存在には恐らく気付いていない。辺りをしばらくうろついたあと、何かを庭に投げ、風のようにどこかに走り去った。色黒のがっしりとした太い首。手の甲にチラチラと見え隠れする3つならんだ黒子にハッとした。
「コオお兄ちゃん、このひと知ってる」
「初瀬川義之か?」
「ううん違う。椎谷さんだよ」
「椎谷って、橋本の取り巻きのひとりか?」
「うん。ほら見て、手の甲に黒子が三つ並んでいるでしょう。一度車椅子の車輪が排水溝の穴にはまって身動きが取れなかったときがあって、椎谷さんが助けてくれたことがあったんだ。すらっとした身長の割には首ががっしりして太かったから、だから間違いない」
「そうか、よく覚えていたな。偉いぞ」
髪をくしゃくしゃと撫でてもらっていたら、
「副島、四季は俺のだ。いちゃいちゃするな」
彼がむっつりした表情で台所からすっ飛んできた。
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