349 / 588
命にかえても守りたいもの
からん、からん、ドアベルが鳴り、紺色のスーツに身を包んだ、白髪まじりの男性が息を切らしながらカフェに入ってきた。
ちらっと男性の顔を見た武田課長が、わずかに険しい表情で唇をぎゅっと結んだ。
男性は僕たちがいるテーブルの前でぴたりと立ち止まると、
「久し振りだな朝宮。斎藤と吉村から結婚したって聞いたぞ。相手は?もしかしてきみか?」
キョロキョロと辺りを見回し、初瀬川さんを指差した。
「私じゃありません。朝宮さんの隣にいる、車椅子の子が奥さんの四季くんです」
初瀬川さんが慌てて首を横に振りながら、僕を指差した。
「え?」
驚くのも無理がない。
呆然としてしばらくの間立ち尽くしていた。
「男の子で悪いんですか?ねぇ、初瀬川さん」
「黒田さんの言う通りです」
見かねた黒田さんが苦言を呈すると、
「気を悪くさせてしまいすみません。はじめまして、阿部法律事務所の代表の阿部と申します」
彼が斎藤と吉村の上司だ。関西に出張していたから、なかなか紹介することが出来なかった。ごめんな。小さい声で話してくれた。
ともだちにシェアしよう!