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命をかけても守りたいもの

「いやぁ~~私までこ相伴に預かり申し訳ない」 阿部さんが頭を掻いた。 「お気になさらずに」 トレーを脇に抱え櫂さんが心配そうに眉を寄せて彼を見つめた。 「副島の説明だと、消防に女性の声で通報があったそうだ。だから、ボヤ程度で済んだらしいが」 彼の表情がみるみる険しくなった。 「また身元不明の遺体が発見されたのか?」 阿部さんもそのことにすぐに気付いた。 「女が男を殺し、消防に通報したあと火を付けて後を追い自殺した。警察はそうみているようです」 「そんな、まさか……」 がたん、椅子が倒れ大きな音がした。 「初瀬川、大丈夫か?」 「櫂さん、お水を頂けるかしら?」 「はい」 櫂さんがカウンターへ慌てて駆けていった。 「ゆっくり息を吐いて。そう上手よ」 黒田さんが床の上に倒れ込んだ初瀬川さんの背中を優しく擦った。 「和真さん、もしかしてそのひとって……」 手がぶるぶると震え、初瀬川さんと同じように呼吸が早く、苦しくなり、ぎゅっと胸を押さえた。

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