353 / 588
命をかけても守りたいもの
「いやぁ~~私までこ相伴に預かり申し訳ない」
阿部さんが頭を掻いた。
「お気になさらずに」
トレーを脇に抱え櫂さんが心配そうに眉を寄せて彼を見つめた。
「副島の説明だと、消防に女性の声で通報があったそうだ。だから、ボヤ程度で済んだらしいが」
彼の表情がみるみる険しくなった。
「また身元不明の遺体が発見されたのか?」
阿部さんもそのことにすぐに気付いた。
「女が男を殺し、消防に通報したあと火を付けて後を追い自殺した。警察はそうみているようです」
「そんな、まさか……」
がたん、椅子が倒れ大きな音がした。
「初瀬川、大丈夫か?」
「櫂さん、お水を頂けるかしら?」
「はい」
櫂さんがカウンターへ慌てて駆けていった。
「ゆっくり息を吐いて。そう上手よ」
黒田さんが床の上に倒れ込んだ初瀬川さんの背中を優しく擦った。
「和真さん、もしかしてそのひとって……」
手がぶるぶると震え、初瀬川さんと同じように呼吸が早く、苦しくなり、ぎゅっと胸を押さえた。
ともだちにシェアしよう!