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命をかけても守りたいもの
ドアベルが鳴り、斎藤さんと吉村さんに両脇を抱えられ、覚束ない足取りでたもくんがお店に入ってきた。
ニット帽を目深く被り、手は包帯でぐるぐると巻かれてあった。
こんなにも憔悴しきったたもくんを見るのがはじめてで。
いつも明るく元気に仕事に打ち込むたもくんと、優しい笑顔のたもくん。僕の全く知らないたもくんにどうしていいか分からなくて。
気付いたら彼の手をそっと握ってた。
「目を離すとすぐに自傷行為に走るから、手はこうするしかなくて。髪もこうするしかなかったんだ」
ニット帽を斎藤さんが脱がせると、
「嘘……」
あまりの衝撃に言葉を失った。たもくんの髪は短く刈られ坊主頭になっていた。頭にも包帯がぐるぐると巻かれてあった。
「四季を誘拐した罪は不起訴処分となった。直売所にもちゃんと謝罪した。ガラス代と床の修繕費用を請求して欲しいと頼んだら、俺達よりも先に須釜製作所の社長と丸和電機の社長が謝罪に訪れて全額を肩代わりしてくれていた。何年掛かっても返済するとふたりに約束した」
生気ない目でぼんやりと辺りを見回しながら椅子に腰を下ろすと、はぁ~と深く深呼吸をした。
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