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命をかけても守りたいもの

「岩水、武田は信用出来る男だ。奥さんは看護師として市内のクリニックに勤務している。心を開いて自分を受け入れてくれ、どんなことがあっても無償の愛情を与えてくれる人に出会うことがトラウマと向き合う第一歩になるんじゃないか?武田なら岩水の親代わりになれると思う。他人の優しさに触れ、甘えてみたらどうだ?武田には娘がふたりいる。もし息子がいたら、趣味の山登りや渓流釣りを一緒に楽しみ、山奥の秘湯の湯に連れていきたいとずっと思っていたそうだ」 「朝宮さん、なんでそこまで俺のこと」 「恋のライバルがいなければ張り合いがなくなるだろう?でも、四季を渡す気はないけどね」 「朝宮さん、武田部長の連絡先を教えてもらえますか?」 「直接聞いたらどうだ?」 彼の言葉にはっとし椅子から勢いよく立ち上がるたもくん。カウンターに並んで座る一組のお客さんのもとに迷わず足を引き摺りながらもゆっくりと近付いた。 「和真さん、武田課長に……」 「な、そっくりだろう。武田と奥さんの美奈さんだ」 彼がそっと教えてくれた。 「岩水くん、お店の名前、ラコントルってどういう意味だと思う?」 「いえ、分かりません」 櫂さんの問いに首を振るたもくん。 「フランス語で出会いという意味だよ」 「出会い……ですか。ステキな名前ですね」 「この名前にして良かった、そう思うよ。たくさんのお客様と出会い、四季くんと出会い、こうして岩水くん、きみにも出会うことができたらね」 「岩水、ぼぉっとしていないで座れ」 「遠慮しなくてもいいのよ」 武田部長と奥さんがニコニコ笑いながら、隣に座るように促した。

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