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悲しい再会

「6歳になってまもない息子をアパートに残しいなくなるなど普通はあり得ないだろう。血痕が所々に残されていたのにも関わらず事件性なし。ただの家出だ、だと。ふざけるな」 阿部さんが捜査員の胸倉に掴み掛かろうとしたまさにその時、 「阿部さん、駄目です」 斎藤さんと吉村さんが駆け付けてくれた。 ふたりの背後からたもくんが姿を現した。 「阿部さん、刑事さん、俺の母さんは妊娠していた。武田さんの娘さんが妊娠中で、お腹を触らせてもらったときはっきりと思い出した。母さんはちっとも嬉しい顔をしてなかった。日に日に大きくなるお腹を見て毎日泣いてた。今だから言える。母さんは円谷にレイプされて、二度目の妊娠をしたんじゃないかって。それは俺の母さんだ。触るな‼」 たもくんが大きな声を張り上げ、警察官の制止を振り切り、大きい骨壺を奪い取ると両手で大事そうに抱えた。 「知らない男が家に突然来て、嫌がる母さんを無理矢理連れていった。お前ら警察は、俺の言うことに一切耳を貸さずよってたかって嘘つき呼ばわりしただろう。臨月を迎えていた母さんをろくに探そうともしなかっただろう。全部思い出した。円谷は善意で俺を引き取ったんじゃない。監視するために引き取ったんだ」 「たもくん、もういいよ」 「岩水」 いてもたってもいられず彼と一緒に駆け寄った。 「片方はきよの赤ん坊で、もう片方は俺の妹のだ。もしあのまま無事に産まれていれば13か、12。中学生になっていたはずだ」 たもくんは警察官を睨みつけると、 「あんたらがしているのは弱い者いじめだ。貧乏人より身内、円谷、金持ちの味方だもんな。ふざけるな!」 溜まりにたまった怒りをぶちまけた。

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