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はじめての家族旅行

「あおり運転が多いから下手に注意しないほうがいい。妊婦がいるんだし、四季に怖い思いをさせたくない。もう少し様子を見よう」 身障者マークがついていない県外ナンバーの黒いファミリーカーが駐車してあった。 10分近く待っても持ち主が現れなくて、 「仕方がない。邪魔にならないところに駐車しよう」 彼が車を移動しようとしたら、コンコンと窓ガラスを軽くノックされた。窓を開けると、 「なじょした?」 白髪まじりのバスの運転手さんが声を掛けてくれた。彼が事情を説明すると、 「なんだべな。移動してもらうように頼んでくっからちいと待ってろ。あとで煽られてもしょうがねぇから、離れたとこにいた方がいいぞ」 「すみません」 「いいんだ。気にすんな。困ったときはお互い様だ」 バスの運転手さんが添乗員の男性と建物に入っていった。 それから数分後。男女の若者のグループが建物から出てきた。 「そんなに睨まなくてもいいのにね」 「些細なことでもぶちキレる若い子が多いからね」 若者たちはベンチやごみ箱に八つ当たりしながら、黒いファミリーカーに乗り込むと、注意しようとした警備員の制止を無視し、物凄いスピードで走り去っていった。 「困ったものだな」 彼がやれやれとため息をつきながら、ハンドルを握り、正面を向いたとき何かに気付いたみたいで、そのまま動かなくなってしまった。 彼だけじゃない。コオお兄ちゃんも結お姉さんも櫂さんも、一様に驚いて愕然としていた。

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