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はじめての家族旅行

シートベルトを外し腰を浮かせみんなが見ている方を見ると、すらりと背の高い40歳くらいの男性と若い女性が連れ立って歩いていた。男性は2歳くらいの女の子を抱っこし、笑顔で話し掛けていた。 「他人の空似……だよね。櫂くん」 結お姉さんの声が震えていた。 「きみをあんな酷い目に遇わせておいて、罪も償わず彼は逃げたんだ。いつかきっと天罰が下る」 櫂さんの声も怒りに震えていた。 警備員さんに誘導してもらい身障者用の駐車場に無事に駐車することが出来た。 建物の隣は広い芝生になっていて、子どもたちが歓声をあげて走り回っていた。 磐梯山の雄大な景色、きらきらと輝く猪苗代湖、そして雲ひとつない、青い空がどこまでもどこまでも続いていた。 男性はベンチに腰を下ろし、芝生で遊ぶ女性と子どもを笑顔で眺めていた。 彼や結お姉さんの存在には全く気づいてない様子だった。 「四季、行こうか?」 彼に声を掛けられ、 「飲み物買ってきたよ」 結お姉さんにも声を掛けられた。 そのとき男性がドキッとして後ろを振り返った。彼にどこか雰囲気が似ていた。 しばらく無言で彼と見つめ合ったのち、バカにするように鼻でせせら笑うと何事もなかったように前を向いた。 「和真、行こう。相手にするな」 男性に向かって行こうとした彼をコオお兄ちゃんと櫂さんが止めた。 【お陰で無事に時効を迎えられた。感謝するよ】 笑顔で女性と女の子に駆け寄っていく男性から心の声が聞こえてきた。

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