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初めての家族旅行

「偶然と運命はとてもよく似てるからだよ。昴にとって副島は、兄の友人であり憧れの存在だった。大学一年のお盆休みに実家に帰省していた俺たちは、カルチャーパークで行われていたあさか野花火大会に出掛けた。その帰り道、横断歩道を渡っていた俺たちめがけて赤信号を無視した車が突っ込んできたんだ。副島は身を挺し昴を守った。命を救ってくれた恩人である副島に、思いがけない場所で偶然出会えば、それはもう偶然じゃなく運命になるだろう。だから、昴はバイトを掛け持ちして、寝る間を惜しんで猛勉強して、副島と同じ大学に進学したんだ。副島が兄を好きだということは薄々気付いていた。諦めようと思っていた矢先、偶然あの場所で会ったから、また会いたい、傍にいたい気持ちに拍車がかかった。どうしても抑えることが出来なくなった、と」 彼がそこで言葉を止めると、 「俺も覚えがあるから、よく分かる。そうやって、恋に落ちるんだ。道で偶然きみを見掛けた日のことは片時も忘れたことはない。あの日からきみは、俺の運命のひとになった」 優しく穏やかな瞳に見つめられた。 自然で柔らかなその笑顔は、僕の大好きな彼そのものだ。 「雨降って地固まるだ。副島は昴の気持ちを受け入れ、まずは友だちから付き合うことに決めた。あまり長居すると姉さんに睨まれるからそろそろ退散するよ。じゃあ、おやすみ」 額にチュッと軽く口付けをすると、そそくさと部屋に戻っていった。

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