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はじめての家族旅行

「和真、来週いっぱいで会社を辞めるみたいよ。CEO(執行役員)を解任されたみたい。あれ、もしかして知ってた?」 「会社を辞めて、須釜製作所に再就職するって話してくれました。先月まで住んでいたマンションを売却して、今、乗っている車も売却して、福祉車両を購入するって。生活が苦しくなるかもって言われたけど、僕も仕事を一日でも早く探して、彼を支えてあげようかなって」 「私が心配する必要はなかったわね」 ニヤニヤと笑われた。 「いいえ、そんなことないです」 顔を真っ赤にしながら慌てて首を横に振った。 「社長職を解任されたあのひと、会社を私物化した背任罪で告訴されたわ。和真にも捜査の手が及ぶかも知れないわ」 「和真さんは会社を私物化したり、会社のお金を使い込んだり、そんな悪いことは絶対にしてません。部下想いの優しい彼が出来る訳ない」 「私もそう思う」 「コオお兄ちゃんは?昴さんは?これからどうなるんですか?」 「会社に留まるみたい。いざとなったら、辞めればいいからって、ふたりとも覚悟を決めてるみたいだよ」 陶芸体験を無事に終え、出来上がった作品を着払いで発送してもらうよう手続きを済ませ、駐車場に向かっていたら、彼のスマホとコオお兄ちゃんのスマホが同時に鳴り出した。 「誰からだ」 「父さんからだ。和真は?」 「お爺ちゃんからだ」 底の知れぬ不安な感情が湧いてふたりとも顔を曇らせていた。

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