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恩返し

「あっ、そうだ」 黒田さんがなにかを思い出したみたいで、バックのなかをごそごそと探しはじめた。 「警察があのあと会社に来てね、橋本さんの机とロッカーから私物を全部箱に入れて持っていったのよ。使っていたマグカップもよ。あとゴム手袋まで。橋本さんの机にあった電話機に黄色いメモ紙か貼られてあることに初瀬川さんが気付いたの。警察も取引先の電話番号だと思って押収しなかったのね。初瀬川さんが試しにメモ紙に書かれた3つの電話番号のうち、ひとつに電話を掛けたら、きよか。珍しいな。ヤクザみたいな男が出たから慌てて電話を切ったみたいよ。あれ、なんでないの。ちゃんと入れたはずなのに」 床を何気に見た彼が何かに気付いた。 「もしかしてこれですか?」 手を伸ばし透明のビニール袋に入った黄色いメモ紙を拾うと黒田さんの前に置いた。 「あら、私ったら。ごめんなさいね」 照れ笑いするとメモ紙を僕と彼が見えるように向きを変えてくれた。 「会社に無言電話がよく掛かってくるようになったみたいで初瀬川さんが気味が悪いって話していたわ。新しく事務の子をふたり採用したんだけど、みんな長続きしなくて、すぐ辞めてしまうの。社長と上石課長と湯沢常務がね、四季くんに戻ってくるように私と初瀬川さんとでなんとか説得してくれって頼まれたのよ」 予想もしていなかったことを言われ、口を開くも言葉が出てこなかった。

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