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恩返し

「倒れていたのは会津若松で出会った貴大の妻子だ。ここの住所が書かれたメモと茶封筒を握り締めていた。おそらくそれをポストに投函しようとして、背後から襲われたのかも知れない」 コオお兄ちゃんが淡々と言葉を紡いだ。 「彼の妻子がなんで福島に?そういえば妊娠中だったよな?」 「母子共に非常に危険な状態だそうだ。娘は膝を軽く擦りむいた程度で、警察が保護している。貴大は逮捕されるのをあらかじめ予見して、自分の実家にふたりを託そうとしていたのかも知れないな」 「目の敵にされ、いじめられるだけだ。それくらい安易に予想出来るだろう」 「貴大も年を取ったということだ。昔つるんでいた仲間が妻子に何をしでかすか分からないんだ。妻の実家には迷惑をかけられない。だから、わらをもすがる思いで自分の実家を頼ろうとしたんだろう」 「こういう時ばっか、ふざけるな」 彼の目は突き刺すほど冷たく厳しかった。 「妻子のことを心配する余裕があるなら、まず先にやることがあるだろう。逃げずに罪を償えば良かったんだ。自分勝手だよ、どいつもこいつもみんな、自分のことしか考えていない」 普段決して怒らない彼がこんなにも怒りをあらわにするなんて。胸が締め付けられるくらい辛かった。

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