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こはるちゃん

「岩水の裁判が明後日からはじまるから深夜まで準備に追われていたんだ。でも、まさか、昴の好きな相手が副島だとは思わなかったな」 「そうですね」 斎藤さんは気付いていないようだった。コオお兄ちゃんが斎藤さんをずっと好きだったってことを。 コオお兄ちゃんは昴さんと付き合うと決めたんだもの。余計な波風を立てない方がいい。膝の上にトレイを置き、こぼさないように慎重にマグカップを乗せた。 「インスタントですが、コーヒーをどうぞ」 「手間をかけさせて悪いね。ありがとう」 斎藤さんが手を伸ばしマグカップの柄を持ち上げてくれた。 「心春はまだ寝ている。夜遅くまで起きていたから、起きるまでそっとしておいてやろう」 彼がリビングに姿を見せた。コオお兄ちゃんも一緒だ。 「心春は四季のことを母親だと思い込んだんだろう。一晩中しがみついて離れなかったんだ。寝言で何度四季のことをママって呼んだが。その度に四季だ。心春の母親じゃない。俺の妻だって、和真のやつ、心春に言い返していたんだぞ」 「副島、それ以上は禁句だ」 耳の痛いことを矢継ぎ早に言われ、ついでに、耳を引っ張られ、いたたた、止めてくれ!悶絶していた。 「朝から随分と賑やかだね。斎藤さんおはよう」 征之おじちゃんも新聞を手に姿を現した。 「こはるちゃん、だっけ?家族の方何時に来るんだっけ?」 「8時55分に2階の新幹線の改札口に迎えに行って、構内のカフェで会う約束をしています」 「引き取ると言ってくれるといいんだけどね。もし、引き取ることを拒否したら、その子はどうなるのかな?」 「母親が助かった場合は退院するまで施設に一時的に預けられるが、助からなかった場合、父親が釈放されるまで施設で暮らすことになる」 「そうか、奥さんと子どもには罪はないんだけどね。逆恨みされるいわれはないのに、不憫でならないよ」 防犯カメラに写っていた映像が決め手になり殺人未遂で逮捕されたのは、彼のお兄さんたちが過去に起こした事件の被害者の遺族だった。

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