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彼は犯人じゃないのに

「こはるちゃん、おてつだい」 「ありがとう。もともとそんなに荷物がないんだ。着替えくらいしか」 「そうなんだ」 「うん」 「おじちゃん、ずっとやすみ?」 「来週から新しい会社に入るから、今はそうだね、こはるちゃんの言う通り、お休みだね。こはるちゃん、上手にお話しが出来るね。すごいね」 こはるちゃんの頰がぽっと赤くなった。 ママに赤ちゃんが産まれるから、ゴールデンウィークあけから保育所に通いはじめたこはるちゃん。ここ一週間一度も通園していなくて、母親と連絡がつかず保育所の方で心配していたと、中村さんが話してくれた。 「須釜社長が配達用のワゴン車を貸してくれることになった。一回で荷物の移動が出来そうだ」 子どものいない須釜社長は会社を清算しようと考えていた。 彼なら社員とパートを守れる。だから、一年後を目処に彼に会社を譲ると社員の前で宣言した。 余命宣告を受けた奥さんのそばにいたい。自分も持病が悪化しているから。それが主な理由だった。 ピンポン、ピンポン、ピンポン けたたましく呼び鈴が何度も鳴った。 「和真くん大変だ。警察が家宅捜索の礼状を持って押し掛けてきた」 征之おじちゃんが息を切らし駆け込んできた。

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