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つかの間の穏やかな日々

「指が動いたって連絡をもらって、それで急いで病院に駆け付けたの。兄の担当をしてくれている看護師さんがほんの一瞬だったから、見間違えたのかもって」 「見間違えじゃありません。義之さん、きっと目を覚まします」 「それはそれで嬉しいんだけど、まなみさんが亡くなったことをどう伝えたらいいのか、悩んでいるの。ありのままの事実を伝えるか、亡くなったことだけを伝えるか」 困惑した表情を一瞬だけ見せたけど、 「夕貴さんに会って来なよ」 いつものように明るい笑顔で背中をそっと押された。 「はい」 「あ、そうだ。赤ちゃんの名前どうするの?出生届を期限まで役所に出さないと無戸籍になるんじゃないの?」 「赤ちゃんの名前と母親の欄だけ書かれた出生届が茶封筒に入ってて、斎藤さんが夕貴さんの代理人として役所に出すって話してました」 「親から勘当されたんだし、堂々と婚姻届を提出すればいいのにね。それはそうと、赤ちゃんの名前なんていうの?」 「円花です。円谷園長先生の円の字と、花でまどかって呼ぶみたいです」 「素敵な名前だね。ねぇ心春ちゃん、足を轢かれると大変だから、ほんのちょっとだけ離れていた方かいいと思うんだけどな」 僕にピタリと張り付くこはるちゃんに初瀬川さんが苦笑いしていた。

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