491 / 588
つかの間の穏やかな日々
「あのね、ママ」
こはるちゃんが背負っていたピンクのリュックサックを肩から下ろすと、中から可愛らしくラッピングしたクッキーを取り出した。
「しーちゃんとつくったよ」
顔の隣にそっと置いた。
「あとね、みてみて」
ママが退院したら大好きなひまわりの花を見せてあげたいと、お爺ちゃんとお婆ちゃんに手伝ってもらい庭の畑に種を蒔いたこはるちゃん。そのときの写真を夕貴さんに見せてあげた。
「夕貴さん、心春ちゃんは来週から町立の幼稚園に仮入園することになった。夕貴さんが退院してくるまで、儂らで心春ちゃんの面倒を見るから安心してくれ」
「四季くんと和真も新米パパとママとして心春ちゃんのお世話を毎日頑張ってるわ。円花ちゃんも保育器の中ですくすく成長してるわ」
お爺ちゃんとお婆ちゃんがこはるちゃんと一緒に声を掛けると、固く閉じた夕貴さんの瞼から一筋の涙が零れ落ちた。
「ママ、ないてるよ」
「きっと嬉し涙だ」
「うれし、なみだ?」
「心春ちゃんが会いに来てくれたから、ママはすごく嬉しいんだよ」
「そうよ」
お爺ちゃんとお婆ちゃんが目に涙を浮かべ、こはるちゃんの頭をぽんぽんと撫でた。
ともだちにシェアしよう!