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暗澹

「そうか結人に会ったのか……」 彼が深いため息をついた。 「出来ることなら一生四季には会わせたくなった。お爺ちゃんにも言われたと思うけど、要注意人物だ。絶対に関わらない方がいい」 「うん、分かった」 「婚約者がいながら何を考えているのか全く分からない男だ。四季、父が誰と交際していたのか副島に調べてもらうように頼んだよ。父の話しは聞きたくもないから、今までずっと無視してきた。それが裏目に出るとは皮肉なものだね」 須釜製作所と胸に刺繍が入った若竹色の作業着をビニールの袋から取り出すと広げてハンガーに掛けた。 「作業着の色変わったんだね」 「前は白だったよな。この色も悪くないと思う。明日から覚えることが山のようにあるけど、一日中椅子に座ってパソコンとにらめっこしているより現場で動き回っていた方が性に合っていると思うんだ。あ、そうだ。すっかり言うのを忘れていたけどマンションは父の名義だから、鍵を父宛てに送った。荷物は全部引き払った。今乗っている車を下取りに出して福祉車両を購入するつもりだ。今は無理かも知れないけど、四季といろんなところに出掛けたいし。今度の日曜日デートしよう。あ、でも、心春も一緒だからデートとはいわないか」 こんなにも生き生きとした彼を見るのが久しぶりで、なんだか僕まで嬉しくなってきた。

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