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暗澹

「しーちゃん、おきゃくしゃん」 お昼ご飯を作っていたらこはるちゃんが呼びに来てくれた。 「ごはん、なぁ~~に?」 「えっとねぇ、こはるちゃんが好きなちゅるちゅるとにんじんしりしりだよ」 「やった――!」 嬉しそうに顔を輝かせ息を弾ませた。 「お、久し振りだな」 居間で僕のことを待っていたのは雄士さんだった。 「斎藤と吉村に頼まれたんだ。ふたりとも忙しくて手が離せなくてな」 「もしかしてきよちゃんの居場所が分かったんですか?」 「橋本は宇賀神組の幹部の真山の女ってことで面倒をみてもらっている。1週間前に予定日より1か月早く男児を出産した。真山は橋本に一緒に育てようとプロポーズしたが、のらりくらりうまい具合に誤魔化したらしい。宇賀神組にちょっとした知り合いがいてな」 「そうだったんですか」 「その真山ってのが二面性のある男で、優しくて面倒見がいいのはあくまで表向きの顔。裏の顔は焼きもち妬きの束縛男だ。ずっと片想いしていた相手が助けを求めて自分の懐に飛び込んできたんだ。そう簡単には手放さないだろう。真山は橋本と岩水の仲を疑ってる。ややこしい事にならなければいいんだが……」 雄士さんが心配そうに眉をひそめた。

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