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暗澹

「和真から聞いた。結人に会ったんだろう」 「はい」 「会っていきなり口説かれたんだろう?」 「え?なんでそのことを知ってるんですか?」 動揺し声が上擦った。 「一宮さんが本屋で結人の姿を見掛けて後を付けたらしい。からかって馬鹿にするのも大概にしろ。一宮さんが怒るのも無理ない。相手にしない方がいい」 「はい。彼にも言われました」 「それと預かっている貴大の娘、これからどうするつもりだ?」 「夕貴さんが退院するまでは面倒をみるって彼とお爺ちゃんとお婆ちゃんと約束したから、それまではうちで」 「じゃあ聞くが、もしも夕貴が亡くなったら?」 「それはその………」 言葉に詰まってしまった。 「和真と四季くんにはふたりで歩む人生があるもの。私とお爺ちゃんで心春ちゃんと円花ちゃんを育てますから心配無用です」 お婆ちゃんがこはるちゃんと仲良く手を繋ぎ姿を現した。 「どーじょ」 両手で抱えるようにして運んできた飲み物を雄士さんに渡した。 「畑で採れた野菜で作った特製野菜ジュースです」 「ご馳走になります」 愛くるしい笑顔を振り撒くこはるちゃんを、雄士さんは複雑な眼差しで見つめていた。

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