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カインコンプレックス

「しーちゃん、うさぎまるきたー」 「こはるちゃん教えてくれてありがとう」 うさぎまるとは、毎週水曜日の夕方に軽快な音楽を流しながら地区に来てくれる移動スーパー、ゆきうさぎ丸のことだ。農協の直売所はあるけど近くにスーパーがないから助かっている。 買い物かごを膝の上に乗せ、こはるちゃんと一緒にお隣さんの家の前に停車しているゆきうさぎ丸に向かった。 「あら、心春ちゃん」 「お手伝い偉いわね」 小さい子どもが近所にあまりいないみたいで、こはるちゃんは隣近所のみんなに可愛がってもらっている。 お店のひとにメモ紙を渡し必要なものをかごの中にいれてもらった。こはるちゃんも張りきってお手伝いをしてくれるから大助かりだ。 「あっ、そうそう。この辺じゃ見掛けない黒い車がうろうろしているから気を付けた方がいいわよ」 「はい。なるべくお爺ちゃんとお婆ちゃんと一緒にいるようにします」 「それがいいわ」 買い物を終えハンドリムをこいで急いで家に向かった。歩いて5分もかからない。どこまでも続く緑色の稲穂が風に揺れまるで波のようだった。 家まであと少しというところで、不意に目の前に出てきた数人の男たちに行く手を塞がれた。 男たちは、4人。 全員、彼より少し若いくらいの外見で服装が派手でこの辺りではあまり見ない顔をしていた。 少し離れた田んぼのあぜ道に止まっている白色のバンから出てきたのだろう。

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