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カインコンプレックス

彼が慌てた様子で帰ってきたのはそれから30分後のことだった。 「急いで帰って途中で事故ったらもともこうもないと、岩水がここまで送ってくれた」 「たもくんが?」 「あぁ」 彼の後ろからたもくんが姿を現したから腰を抜かすほど驚いた。 「四季、久し振り。元気そうで良かった」 「たもくんも元気そうだね。車の運転が出来るまで回復して良かった」 「会社を休ませてもらった分バリバリ働いて、母さんたちの墓を作ってちゃんと供養してやらないと二人が浮かばれないからさぁ。こんな俺でも応援してくれるひとたちがいる。だからその人たちの為にも頑張らないと」 たもくんの表情は清々しく明るかった。 きよちゃんのことまだふっ切れていないみたいだったけど。 「明日7時に迎えに来ます」 「悪いな」 「いえ。では失礼します」 帰ろうとしたたもくんにお婆ちゃんがご飯を食べていくように声を掛けた。 「あ、でも………」 「武田さんご夫婦には私の方から連絡を入れておくわ。ほら、突っ立ってないで座って」 一瞬、躊躇したたもくんだったけど、お婆ちゃんに押しきられ、椅子に腰を下ろした。

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