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カインコンプレックス

「俺も知らなかったんだけど、兄弟間の嫉妬のことをカインコンプレックスと呼ぶみたいだよ」 「カイン……コンプレックス?」 「あぁ。兄弟姉妹の間でおこる憎しみや嫉妬などの葛藤のことだ。どんな兄弟でも、少なからず争ったり互いに劣等感を感じたりしながら育っていくのが普通だと思うんだ。それをおさめバランスをとって導くのが親なんだけね」 淋しい悲しげな表情を浮かべた。 「唯人は俺や姉さんを心から憎んでいる。子離れ出来ない親に異常なまでに可愛がられ、貴大や俺みたく下等でバカな人間になるなと言われ続け育てば、まぁ、そうなるな。その下等な人間である俺が一回りも年下の四季と結婚して、幸せな生活を送ってることが、彼にはどうしても許せないみたいだ」 「それってただの逆恨みでしょう」 「そうだな」 彼が力なくクスッと笑った。 「唯人は、俺が傷付くことや、不幸が降りかかることを積極的に願っている」 「しーちゃんめっけ」 こはるちゃんが元気いっぱい駆け込んで来た。 「心春、女の子なんだから裸でうろうろしては駄目だ」 「ごめんなしゃい」 「心春、もしかしてしーちゃんに服を着せてもらいたかったのか?」 「うん」 目をうるうると潤ませてこくりと頷くこはるちゃん。 「泣かなくてもいいんだよ。分かればそれでいいんだよ」 しゃがみこみ微笑みながらこはるちゃんの頭を撫でるとようやく笑顔が戻った。 「心春、出来るところまで自分でやってみようか」 「はぁ~い」 ボタンはまだ難しいみたいで、ズボンを履かせたあと、一緒にボタンを留めた。

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