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こはるちゃん、しーちゃんがいい
「髪もまだ濡れてる。急いで乾かさないと、風邪ひいちゃうよ」
「はぁ~い」
前に立たせて髪をドライヤ―の温風で乾かしてあげた。
「くすぐったい」
首が弱いのかな?風が当たるたびにくねくねと腰を揺らすこはるちゃん。その仕草がとても可愛くて、ぷぷっと何度も吹き出しそうになった。
「ありがと、しーちゃん」
髪を乾かしたあと、こはるちゃんに渡されたのは小さな鍵だった。
「もしかして、さっき拾ったの?」
うん、こくりと小さく頷いた。
「なんの鍵かな?」
「しゅずゅ、りんりん」
「そうだね、りんりんだね」
鈴が付いた赤いストラップ。
どこかで見たことがある。そのどこかが思い出せない。
「自転車かロッカーの鍵だと思うけど、調べてみるよ。心春、そろそろねんねしようか?」
「こはるちゃん、しーちゃんがいい」
「分かったよ」
頑固なのは誰に似たんだ。ぼやきながらも、こはるちゃんを抱き上げてくれて。膝の上にそっと下ろしてくれた。
親指をしゃぶりながら、ぎゅっと服にしがみつくこはるちゃん。まるでコアラの親子みたいだな。彼が愉しげに笑っていた。
施設で小さい子たちによく歌っていた子守唄を口ずさみながら、背中をぽんぽんと撫でるとやがて船をこぎはじめ30分後にはすやすやと眠りはじめた。
布団に移動する間、あることを思い出した。
「和真さん、運転手席と助手席に誰か座っていた。遠くて顔まではよく見えなかったけど、あの黒い影、人だったかも知れない」
「そうか」
車椅子を押しながら、心当たりでもあるのかなにやら考え込んでいた。
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