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彼のお父さん
「マスター、おかわりもデザートも頼んでいませんが……」
「いつも贔屓にしていただいているので心ばかりのお礼です。四季くんも一緒に休憩して」
櫂さんがニッコリと微笑んでカウンターへ戻っていった。
「朝宮の側にいることは分かっていたので探偵を雇い妻を必死で探しました。その過程で、あなたのご主人たちのことを知りました。妻は朝宮に恨みをもつ彼らを利用としているんじゃないか、そう思って。それでなんとしてでも止めようとそう思って」
熊倉さんが上唇をきつく噛み締めた。
「こんなにいい人たちを逆恨みするなんて、なんて罰当たりなんだ。妻に直接伝えることが出来ないのが悔しい」
「熊倉さん、今からでも遅くねぇぞ。奥さんのこと、サツが必死になって探している。マチガイを起こす前に見付けてやれ。奥さん、首を長くして迎えに来るのを待ってるはずだ」
モップで床を拭きながらヤスさんが熊倉さんに声を掛けた。
「あ、でも、迎えに行くのはまだだ」
「なぜですか?」
「物騒なモノを持ち歩いているおっかね女がいるんだ。まずは腹ごしらえが先だ」
ガヤガヤとなにやら外が騒々しい。
そのうち救急車のサイレンの音が聞こえてきたから、何かあったんじゃないかと心配になってきた。ハンドリムに手を置くと、
「さっきも言ったろう。うちの若いのは血の気が多いってな。ただのちょっとした小競り合いだ。気にすんな」
ヤスさんがそう言うなら。
熊倉さんも様子を見に行こうと椅子から立ち上がろうとしたけど思いとどまった。
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