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第一章・4

 紫苑が帰宅すると、兄の靴に並んで小さなローファーが揃えてあった。 「……チッ」  父親の夜勤が最近多いのをいいことに、来夢はよく波留を家に上げるようになっていた。 「あ、おかえりなさい。紫苑」 「……来夢は?」 「お風呂、入ってる」 「飯は食ったのかよ」 「まだ」  恋人に飯も食わせず放り出して、まず自分がシャワーかよ、と紫苑は不機嫌になった。  いい加減な兄の悪口を腹の中でぶつくさ言いながら、紫苑はキッチンに立った。  波留の前で、来夢の悪口を振りまくような悪趣味な男にはなりたくない。  ただ冷蔵庫を開け、何か作れそうなものはないかと考えた。 「紫苑~。僕、グラタン食べたい」 「グラタンか」  幸い鶏肉とブロッコリーがある。  紫苑は手早く、グラタンの準備を始めた。

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