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第二章 波留のために

 クリスマスを前にして、来夢の周囲が不穏になった。  波留が、こんなことを言い出したのだ。 「ね、紫苑。来夢、最近変わったことない?」 「どういう風に?」 「あんまり知らない人と、電話してるとか。会ってるとか」 「別に」  紫苑は短く答えると、読みかけの本に目を落とした。 「そっかぁ。だったら、僕の思い過ごしだよね」  来夢、浮気してるんじゃないか、なんて考えちゃった。  そんな風に、口に出してわざわざいう所を見ると、本当は自信が無いに違いない。  僕は、来夢に愛されてる。  来夢は、僕だけを見てくれてる。  そういった、恋人の鉄板が揺らいできているに違いない。  紫苑は、本を読むふりをしながら考えた。 (あいつ。来夢のやつ、本気で気があるのか?)  水島 由樹(みずしま ゆき)。  先だって、初めて来夢が自宅へ連れてきた男だ。  大学の合コンで知り合ったという由樹は、キュートというよりセクシーだった。  波留と、真逆の魅力があった。  危うい空気を醸す、大人のΩ男性だった。

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