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第三章・9
食事が終わり、来夢が風呂に入っている時、波留が紫苑に話しかけて来た。
「ね、帰り道に、恋人できた、って言ったよね」
「ああ」
「キスとか、した?」
「した」
「え、いつ?」
「昨夜」
波留の胸は、とくんと鳴った。
紫苑は硬派で、簡単にキスなんかしないと思ってたのに。
わざとらしいほど明るく、続けた。
「じゃあ、エッチもしちゃったんだ?」
「ああ」
(えーっ!?)
波留の胸は、どきんと打った。
頬が、熱く火照って来る。
そのまま波留は、沈黙してしまった。
「どうした?」
「え、いや。意外だなぁ、なんて」
来夢の弟の、紫苑。
彼はいつも、来夢とセットで波留の心の中にいた。
来夢が波留のものであるように、紫苑も波留のもののような錯覚に陥っていた。
(何か……、ショック)
テレビから聞こえる芸人の明るい喋り声が、やけにむなしく響いていた。
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