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第四章 淋しい気持ち
話は唐突だった。
来夢はスマホでゲームをしながら、画面から目を離さずついでのように紫苑に言った。
「あのさ、近いうちに俺、この家出るから」
「何だよ、それ」
「やっぱ大学生になってまで実家にいるって、何かとね」
何かと、なんだよ。
来夢は、世間体が、だの、キャンパスの近くに住んだ方が便利、だのと御託を並べていたが、紫苑の胸の内には疑惑が沸いた。
(まさか、まだ由樹に未練があるんじゃないだろうな)
波留に秘密で彼に会うには、実家から離れた大学近くの方が、都合がいいだろう。
「父さんには、話したのかよ」
「賛成してくれたぜ? マンション買ってやる、って」
いらいらと、紫苑はため息を吐いた。
αである父は、同じα性の来夢にとことん甘い。
車の次は、マンションか。
物を買い与えることが愛情表現と思い込んでいる父を、紫苑はあまり好きではなかった。
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